カラックスとユーロスペース

Filed under: 映画 @ 2013年5月31日

東京・渋谷のユーロスペースで公開されていた、レオス・カラックス監督の『ホーリー・モーターズ』。5月31日までだったが、ぎりぎりに観ることができた。

これは、観る人によって、いろいろな捉え方がでてくる。カラックスをどれほど好きで観てきたか、映画をどれほど観ているか、あるいは、その人がこの10年(あるいは20年)どんな人生を送ってきたか、それによって変わってくると思う。

ということで、ここでは自分なりに一つポイントをしぼって書いてみる(以下、ネタバレあり)。

物語は、主人公のオスカー(ドニ・ラヴァン)が、クライアントの指示にしたがって、8つの人物を演じるが、印象深いのは、ラスト1つ前の、サマリテーヌ百貨店でのエピソードだ。

大改装前で廃墟のサマリテーヌを舞台としたこのシーン。サマリテーヌの目の前は、あのポン・ヌフがある。そこで、「30分だけ」の時間を共にすることになった、ジーン(カイリー・ミノーグ)とオスカー(ドニ・ラヴァン)。かつて引き裂かれた男女が、限られた最後の時間を共有する、という設定。アールヌーボー調の廃墟の階段をすすむなか、信じられないほど美しいミュージカルシーンが生まれる。

ドニ・ラヴァンは、あのアレックス3部作のドニ・ラヴァンであり、カラックスの分身。するともう、カイリー・ミノーグは、ジュリエット・ビノシュでしかない。

そこで歌われた「Who Were We?」(私たちは誰だったの?)は、カラックス自身が作詞したというから、彼の心情吐露が焼き付いている。「私たちは誰だったの?」。かつての別れに自責の念がにじむ。

『ポンヌフの恋人』(映画の「ポンヌフ」も、改築中で、ある意味廃墟の設定だった)以降、別々の道を歩んだ、ジュリエット・ビノシュとカラックス。カラックスはやはり、ビノシュに未練を……、なんて想像するのだ。

このエピソードの最後は、ジーンと、現在の恋人との投身自殺で終わる。ポンヌフ横の道に朽ちた男女の遺体。カラックスのなかの大きな物語が、『ポンヌフの恋人』で完全に終わっていたことを象徴させて、なんとも痛々しい。

ということで、『ホーリー・モーターズ』はアレックス三部作の延長線上にあるといったほうがいいのだろう。『ポーラX』からの13年ではなく、『ポンヌフの恋人』からの21年の時の重みを感じなくてはいけない。

その21年とは、きっと空白である。

そして自分も、時の重みと空白を痛感する。ユーロスペースが移転していたことなんて、知らなかった。

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